東京個別指導学院 ~創業者による逆日歩狩りと疑惑の売買~

2016年4月14日、大手学習塾の東京個別指導学院より分売が発表されました。
分売内容の詳細については分析ページまたは実施IRをご覧ください。

貸借銘柄で東証1部銘柄、出来高もそこそこ、分売株数が260万株で少し多いということ以外は至って普通の分売です。

浮動株比率3.30%の銘柄にこの分売数量では何もしなければ分売当日の下落は必至、当日までの下げを狙ってそれまでに少し売りを入れるかな、と誰もが思ったことでしょう。

実施期間は2016年4月22日(金)~4月27日(水)の4日間のいずれかです。
参考までに2016年4月、5月のカレンダーを用意しました。(勘の良い方ならこの時点で何かにお気づきでしょう…)

2016年4月、5月 カレンダー
東京個別指導学院 大株主

まずは大株主の状況を見てみましょう。

親会社として筆頭株主のベネッセHDが61.9%を握っていますが、特段の理由がなければ大株主が手放すということはないでしょう。
もしそうであればその旨についてのIR発表が普通はあるはずです。

そうなるとこの状況で260万株も放出できるとすれば、第2位株主の(有)エスビー・アセットマネジメントか第3位の馬場信治氏あたりとなります。

こちらの正体が誰なのかというと、東京個別指導学院の創業者およびその資産管理会社のようです。 ただ、ネット上にはあまり情報が転がっていないようなので詳しい事はわかりません。




この馬場信治氏について調べてみると、昨年2015年10月29日に大量保有報告書(変更報告書)を提出していることが判ります。

それによると(有)エスビー・アセットマネジメントとの共同保有者である旨と、2015年2月23日~4月21日までに不自然なほどに大量の株式を買い増しています。 取得資金が自己資金1,745,507千円、取得資金が3,228,000株ということなので、平均取得単価は540円強といったところでしょうか。


東京個別指導学院 変更報告書 2015年10月29日

これだけの株数を市場から無理矢理買い付ければどうなるでしょうか。

前述のとおりただでさえ少ない浮動株が買い占められるわけなので、言わずもがな株価は上昇していきます。
元々は350円台だった株価は700円台まで倍になっています。

上記のうち、連日すごい株数を買っているのに、4月9日だけはなぜか100株だけしか買えていません。
実はこの日の前日に2015年2月期の決算短信と、記念配当を含む大幅増配のIRが発表されております。
そのためにストップ高比例配分で、100株しか配分がなかった模様です。

いくら既に退任した創業者とはいえ、これだけの短期間に不自然なほどに大量に自社の株式を買い占めていて、これだけのサプライズ発表を知りませんでしたということはないでしょう。

東京個別指導学院 2015年2月~4月チャート

何らかの理由でこれだけの株式を買い占めたわけなので、いずれかは利益確定のために手放す必要があります。
ですが、普通に市場で売り捌いていては逆回転が起きて自分の売りで株価を下げてしまうことになりかねません。

東証の業務規程が2007年に見直されていますが、立会外分売について不適切な利用が目立ってきたので、1年以内に取得した株式でないことの確認が取れない場合には分売を利用できないという規制が追加されました。

先ほどの変更報告書をもう一度見てみると、最後の取得日が2015年4月21日となっています。
つまり、今年の2016年4月22日以降であれば分売で売却可能ということで、今回の実施に繋がっているようです。

東証業務規程 立会外分売

さて、前置きが非常に長くなりましたがここからが本題となります。

これだけの株数であれば必然的に分売発表以降は空売りが溜まり始め、連日株価は下落し始め、分売発表当日終値が773円だったのに対し、分売予定開始日前日は681円まで売り込まれます。

普通は立会外分売は実施期間の初日に実施することが多いので、必然的にそれを狙った空売りが入ります。

4月21日(木)がやってまいりました。空売りを入れた投資家はあとは実施発表を待つだけ、という状況だったのですが・・・
普通は早ければ16時には実施IRが出るはずですが、出ていません。それでは16時半発表かと思えば・・・出ません。
結局その日は実施見送りということで、実施IRが出ることはついにありませんでした。

翌日4月22日(金)、これに面食らった売り方の一部は買い戻しを迫られます。
寄りはさほど踏み上げませんでしたが、買い戻しが買いを誘い一時724円を付け、後場にやや売り込まれるもののこの日は陽線引けとなりました。

それでも大幅に踏み上げなかったのは、1日目になければ2日目に実施するだろうという思惑もあったはず。
そしてこの1日目の金曜日にも結局実施発表はありませんでした。

週明け4月25日(月)この日も売り方により買い戻しで発表日以降の価格帯の730円台まで買い戻されます。
実はこの日を持ち越すと逆日歩が4日分かかることもあり、焦った売り方の買い戻しがあったことでしょう。
そして2日目も実施発表はありませんでした。

翌日4月26日(火)、3回も裏切られた売り方の損切りで始値は753円と壮大な踏み上げで始まります。
この日持ち越しても逆日歩4円、ここまで上がってしまえば大概は損切らざるを得ないはずです。
ただ、ここまでなければ最終日実施に違いないと踏んだ冷静な投資家によって終値は723円と陰線引けです。

そして結局この最終日、やっと待ちに待った分売実施発表がありました。
ただ、終値723円の分売価格712円、割引率-1.52%というのはとてつもなく渋いです。(歴代5番目)

東京個別指導学院 5日チャート
東京個別指導学院 分売日寄付板

こちらは分売日の寄り付き前8:59:50の板状況です。

これだけの株数で、売り方も撤退している状況であればGMOクリックHDのように大暴落は避けられないかと思ってましたが、なんと全然売り物が出ません。

なお、8:00からずっと観察していましたが、8:05~8:30頃まで712円に4万株の見せ板が出ていたことも補足しておきます。

もちろんこのクソ渋い割引率で買い戻しも期待できない状況であれば、賢明な投資家はスルーしたことでしょう。

それによって売り玉を持ち越していた売り方が貰っていき、それを現渡ししたことで売りも買いも少なかったのかもしれません。

寄付きでの出来高はわずか219,800株、当日出来高も712,200株、日中値幅も13円と当日は穏やかすぎる展開でした。

8:00-9:01の板寄せから始値形成までの板状況は録画してあるので、じっくり観察したい方はフル板動画をご覧ください。 (諸般の事情により時間が画面中に入ってませんが、ほぼ再生時刻=8時台の時刻に認識で結構です)

これだけ売り物が少なければ、みんな敬遠してスルーして売れ残ったと誰もが思ったことでしょう。 10:00発表の分売結果IRは・・・なんと全株約定=売れ残りなしの完売ですからこれまたびっくりです。



ここで改めて株価の時系列データを整理してみたのでまとめておきます。

実施発表から翌日以降は株不足の状況になったため、すぐに逆日歩が発生し始めます。
日証金ベースの株不足は20万株~40万株で分売実施日までずっと続いていることがわかります。

空売りは誰かが株を貸してくれないとできないわけで、日証金が調達できない場合は当然大株主や機関投資家などから株を借りることになります。

上記の大株主一覧を見ればわかりますが、これだけの株数を貸株できるところは限られます。

そう、今回は分売の売出主が空売りの貸株主であるという公算が非常に高いわけです。
今回の実施スケジュールを見ると逆日歩日数があえて伸びるGW前に被せてきた可能性が高いと思われます。

日数も考慮した逆日歩累計は、初日から売っていた場合でなんと17.2円、木曜からでも11.2円と分売の割引率をも超えます。
貸株主が株不足分の品貸料を全部受け取っていたと仮定すると、この2週間での受取額はなんと600万円超という計算に。


日付 注釈 始値 終値 前日比 出来高 貸株残 融資残 逆日歩 日数
4/14(木) 分売発表 775 773 -8 48,700 98,000 7,500 0.05 円 1日
4/15(金) 発表翌日 714 733 -40 436,100 223,500 15,900 1.00 円 1日
4/18(月) 720 723 -10 115,700 253,700 23,200 1.00 円 1日
4/19(火) 725 719 -4 112,700 278,400 18,400 3.00 円 3日
4/20(水) 715 698 -21 214,300 341,800 33,400 1.00 円 1日
4/21(木) 開始予定前日 697 681 -17 424,400 419,100 34,400 1.20 円 1日
4/22(金) 見送り1日目 698 716 +35 463,700 428,800 15,000 1.20 円 1日
4/25(月) 見送り2日目 730 736 +20 315,700 439,300 34,100 4.80 円 4日
4/26(火) 見送り3日目 753 723 -13 336,400 440,600 43,300 4.00 円 4日
4/27(水) 実施日 708 715 -8 712,200 65,600 24,200 0.00 円 3日

実施期間初日にやっていたと仮定した想定分売価格670円と実際の売値712円では260万株分なら1億円近く違ってきます。
そりゃ売出主は売り方を懲らしめてでも分売価格吊り上げに必至になってくるわけですよ。

特に前述の怪しい買い占めをしてるような怪しい売出主が普通に動くわけないですよね。
これで分売取扱料を差し引いた手取りは700円前後、540円台で買った大半を売り抜けて4億円の利確乙です。


今回の一件のような問題のある分売を許してはいけないので、こうしてアーカイブページに永久に残しておきます。

この件で売り方が萎縮してしまった影響で、翌日のPIの分売はいつもと比べて空売りが全然入っておらず、初値はまともだったものの終値は分売価格比-44円と散々な結果でした。
ある程度の売り方がいるからこそ分売が滞り無く捌けるという事実を理解してほしいものです。

投資家としての教訓としては、売出主の意図を読み取る、逆日歩の絡みそうな案件は手出し無用といったところでしょうか。
いずれにしても今後のために多くの勉強になる案件でした。




これだけで終わらないのがいつもの流れではありますが・・・

4月3日、世間を騒がせたタックスヘイブンを利用した課税逃れパナマ文書が話題に上がります。
この時点では日本はあまり関係なく、という状況だったわけですが・・・

5月6日、パナマ文書に東京個別指導学院の名前が載っているとの報道がありました。

文書には2005年に英領バージン諸島に設立された会社の約6.8%の株主として「東京個別指導学院」の名が記載されていた。
ただ連絡先は、同学院の株主で、加藤氏が代表取締役を務める会社の住所と、短縮した名前が記されていた。
東京個別指導学院は「社内調査の結果、同社の株式を取得した記録はない」と説明している。


5月10日、パナマ文書の正式リストが公開されます。
前々から報道されていたとおり東京個別指導学院の名前がしっかり載っているわけです。


東京個別指導学院 パナマ文書

その後はパナマ文書の一件もあり、5月13日時点では株価は700円を割れて5日続落です。

創業者による260万株の売り抜けタイミングといい、パナマ文書の一件も知らなかったとはとても思えない状況です。
これはどうやら正式発覚前に処分したかったのか何らかの裏があるようにしか思えません。

当局による真相解明が待たれるところです・・・


東京個別指導学院 日足チャート
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